アルコール依存症治療について

刈谷病院では、平成4年から本格的にアルコール依存症治療に取り組んでいます。当院では、医師や看護師だけでなく薬剤師、精神保健福祉士、作業療法士、公認心理師、管理栄養士などの多職種によるチーム医療を提供しています。

不適切な飲酒により、肝臓がんを始めとした多種多様な臓器障害が引き起こされます。
また、暴言・暴力、虐待、DV等周囲の人が巻き込まれたり、自殺等のリスクを高めることもあります。不適切な飲酒をしている場合は、アルコール依存症の可能性があります。
アルコール依存症の家族も、本人の飲酒問題に巻き込まれて疲弊してしまいます。

本人への対応を効果的に行うために、家族の対応スキルや考え方などを学ぶアルコール家族教室や家族支援プログラムなども行っています。

刈谷病院は、平成30年9月に愛知県依存症専門医療機関(アルコール健康障害)・愛知県依存症治療拠点機関(アルコール健康障害)に選定されました。
院内に刈谷アディクションセンターを開設し、県内の医療機関・関係機関向けの医療従事者専門研修事業・専門相談事業・情報発信事業を展開、院内外のアディクション医療の窓口としても機能しています。

愛知県依存症治療拠点機関(アルコール健康障害)啓発サイト

入院治療

アルコール依存症の入院治療を希望される方が対象となります。ARP(アルコールリハビリテーションプログラム)は離脱期をARPⅠ期、離脱期を過ぎるとⅡ期としてプログラムを行っています。ARPⅡ期の入院期間は10週間で、アルコール依存症に関する学習会、ミーティング、自助グループの参加や家族環境支援、環境調整等を行います。

アルコールリハビリテーションプログラム(ARP)Ⅱ期
学習会

医師、看護師、精神保健福祉士、管理栄養士が担当しテーマに沿って学習します
・アルコールによる身体の病気
・アルコール依存症とは
・ACの問題
・栄養指導
・ドライドランクに巻き込まれた家族の気持ちを知ろう
・タバコにさよならする方法
・退院後の生活と社会復帰

地域自助グループ例会(断酒会、AA)

アルコール作業療法プログラム(AOP)

・体力測定
・創作活動

外泊訓練と居住地の自助グループ参加

ステップ学習会(認知行動療法)

自分の飲酒問題を振り返り自分の行動や感情、生活の取り戻し方やストレスの対処方法等を一緒に考えます

グループ動機付け面接(GMI)

ビデオ学習会

アルコールメッセージ

・第1週:DC合同ミーティング
・第2週:断酒会メッセージ
・第3週:AAメッセージ
・第4週:マックメッセージ

外来治療

抗酒剤、飲酒量低減薬、断酒補助剤などの薬物療法や断酒日記などを活用し、断酒を目指す方や継続されている方のお手伝いをします。
治療はしたいが入院する都合がつかないという方に対して、外来に通院しながら参加できる治療プログラムもあります。ご希望の方は医師もしくは外来看護師にご相談ください。
本人や家族が自助グループを知る機会となること、また自助グループ参加の不安を減らすために、医師の指示により診察時に直接電話で断酒会員と話せるよう取り次ぎをしています(SBIRTS)。

SBIRTS=エスバーツとは

Screening: ふるい分け、Brief Intervention:簡易介入、 Referral to Treatment & Self-help groups:専門治療と自助グループへの紹介のそれぞれの頭文字を取っています。
依存症の早期発見から介入、専門医療の治療を経て、自助グループに繋がることで一連の治療の流れを確立させるものです。

断酒は一人で継続するのはとても難しく、アルコール依存症は何度もスリップを繰り返す可能性が高い病気です。
自助グループで体験談を話すことにより、自己洞察が深まり、回復へと結びついていきます。また、酒害に苦しみそこから回復した当事者や家族の話を聴くことで、みんな仲間だという一体感が生まれてきます。仲間と支えあいながらの「一体感」と「自覚」が断酒継続の原動力になると言われています。
SBIRTSの後には刈谷病院で独自に作成した「例会場案内」を渡し、看護師が詳細を案内しています。

院外の自助グループのみならず、刈谷病院には院内自助グループ「めばえ」があり、外来受診時に看護師が説明をしています。
アルコール依存症治療はタイミングがとても大切です。当院の外来では「すぐに受診したい」という思いに応えられるよう、特別な初診枠(予約制)も用意しています。詳しくは外来看護師にご相談ください。

作業療法(OT)

作業療法では、患者さん一人一人の病状や生活スタイル、目的に合わせて、外来通院しながらプログラムに参加できます。飲まない時間を作り、生活リズムを整え、対人交流や活動を通して、楽しみや気分転換の場を提供しています。

詳しくはこちら
デイケア

作業療法では、患者さん一人一人の病状や生活スタイル、デイ・ケアでは、断酒継続中の方や飲酒量を減らしたい方が、飲まない時間を作り、安定した生活を続けるための居場所を提供しています。また、就労や復職を目指す方が、生活リズムを整え、体力の回復を図り、お酒を飲まない生活術を身に付け、社会復帰するためのお手伝いをしています。さらに、仕事をしている方や主婦の方などが、お酒について振り返る機会や、顔見知りの仲間と交流をもつ機会として利用しています。

詳しくはこちら
デイ・ケアプログラム
1 アルコールテーマプログラム
 
目的 アルコールメンバー同士が交流を深め、しらふで活動する機会をもつ
内容 メンバーで話し合って決めた活動を行う(ウォーキング、外出、座談会など)
2 アルコールメッセージ
目的 人の体験を聞き、自分の体験を話すことで、自己理解を深める。自助グループとのつながりをもつ。
内容 テーマにそって順番に自分の話をする

第1・5週:デイ・ケア、病棟合同ミーティング
第2週:断酒会メッセージ
第3週:AAメッセージ
第4週:MACメッセージ

3 再飲酒予防プログラム
目的 アルコール使用障害について学ぶ。アルコールを飲まない生活術を身に付ける。
内容 1週間の振り返り、テキストの輪読、意見交換など。
院内自助グループ「めばえ」

めばえは、お酒の困りごとや心に抱えている不安や色々な思いを、仲間の中で安心して話ができる集まり(院内自助グループ)です。
めばえの特徴は、多方面のアルコール依存症の方々が参加されていることで、入院中の患者さん、地域にとらわれず色々な自助グループの方やどこの自助グループにも属していない方などさまざまです。
刈谷病院からは、病棟看護師が参加しています。飲み物を飲みながら気楽な雰囲気で語り合えることも特徴の一つです。参加をご希望の方は、外来看護師にご相談ください。

開催日 病院の稼働日の土曜日 午前9:30~11:30 
場 所 リハビリ棟コンチェルト2階活動室
断酒日記
断酒日記をつけましょう

断酒日記で成果を確かめましょう!
アルコール依存症の治療は正直に話す事、記入することが大切です。
どの形式でも良いので、ご自分の気に入ったものをお使い下さい。

家族支援・相談
家族教室

アルコール依存症は、本人の身体や心だけではなく、家族を巻き込む病気です。家族教室は、家族に病気を正しく理解していただき、そして同じ悩みを持つ家族同士で語り合える場です。医師、看護師、精神保健福祉士、管理栄養士が担当し、テーマに沿って学習します。
稼働日の土曜日 午前9:30~11:30 A棟1階 ミーテイングルーム

詳しくはこちら
テーマ

① アルコール依存症とは
② アルコールはどのようにして身体と精神を侵すか
③ アルコール依存症の治療について
④ ACってなんだろう
⑤ 自助グループと回復
⑥ 栄養指導
⑦ 望ましい行動を増やし、望ましくない行動を減らす方法
⑧ アルコール問題のある方との接し方
⑨ 家族はこのように巻き込まれる

CRAFT(クラフト)法

CRAFT法は、飲酒問題に悩む家族のための個別相談プログラムです。
本人と対立せずに治療を勧める方法を学びます。
本人が治療を受け入れやすい環境を作るだけでなく、家族自身が今より楽になれることを目指します。
当院では、本人が治療につながっていなくても、また受診を希望していなくても、家族がCRAFT法について専門職員や医師に話を聞くことができます。

アルコール問題セルフチェック

チェックしてみる開く

現在の飲酒習慣が適切なものなのか、あるいは健康への被害や日常生活への影響が出るほど問題のあるものなのか、アルコール問題簡易検査(AUDIT)で確認してみましょう。

各問の中から最も近いものを選んで、下の(採点)ボタンをクリックしてください。



【例】一日ビール(500ml)1本と日本酒2合飲む人の場合・・・
ビール(500ml)1本[2ドリンク]+日本酒2合[4ドリンク]=6ドリンク









アルコール問題簡易検査 結果

あなたのAUDIT点数は

点/40点

点数が低いほど、より健康に影響の少ない、安全な飲み方と言えます。

AUDIT点数が示す飲酒の影響と望ましい対処
20点以上の方は・・・

現在のお酒の飲み方ですと、下図に示すようにアルコール依存症が疑われ飲酒のためにあなたの健康だけでなく、家庭や職場での生活に悪影響が及んでいることが考えられます。
今後のお酒の飲み方については、一度専門医にご相談下さい。診断によっては、断酒が必要となります。

AUDITスコアの持つ意味
節度ある適度な飲酒とは
  1. 女性は男性よりも少ない量が適当である
  2. 少量の飲酒で顔面紅潮を来す等アルコール代謝能力の低い者では通常の代謝能を有する人よりも少ない量が適当である
  3. 65歳以上の高齢者においては、より少量の飲酒が適当である
  4. アルコール依存症者においては適切な支援のもとに完全断酒が必要である
  5. 飲酒習慣のない人に対してこの量の飲酒を推奨するものではない

「節度ある適度な飲酒」としては、1日2ドリンク程度である

インタビュー

アディクションセンター長 菅沼先生にお答えいただきました
刈谷病院 アディクションセンター長
菅沼 直樹

アルコール依存症の治療において重要なことは何でしょうか。

依存症は病気であり、病気である以上は治療法があります。
そして、回復のための支援が必要なのです。長らく、そういった当然の認識について社会的理解が乏しく、必要な治療や支援に結びつきにくい問題がありました。理解不足からの偏見が患者さんやご家族を治療から遠ざけてしまう危険性があるのですが、最近は少しずつ意識が高まってきたのか、ご本人がひとりで来院するケースが増えてきたように感じます。

「依存症は病気なので治療に結びつける方がいい」ということが認知されてきたのは、とても大事な変化です。
また、アルコール医療は専門の医療機関だけで完結するものではなく、自助グループとの連携も欠かせません。
当院には、「出会いの場を積極的につくってほしい」という患者さんたちの声からできた院内自助グループ「めばえ」があり、例会よりもくだけた雰囲気の茶話会のようなものとして機能しています。

地域ネットワークの構築にたいへん力を注いでらっしゃいますね。

当院は、「地域の中の病院」という理念を持ち、地域連携を活発に行ってきました。
施設を作って入院患者さんを囲い込むのではなく、地域に戻していくべきだという考えからです。
今年で12回目を迎えた病院フェスティバル「あったかハートまつり」では、地域の子供たちや家族連れが2000人近くも遊びにきてくれます。地域ボランティアの方々にも積極的に協力をいただきながら、病院の中でみなさんが患者さんたちと楽しんでらっしゃる姿を見ていると、地域の中での精神科病院のイメージが自然に定着していることを実感します。
そういった活動と並行して、アルコール健康障害対策基本法が実効性を持って機能し、愛知県の推進計画を進めていくために、保健所を中心としたネットワークの構築に協力しています。
保健所をベースにすることで、警察や消防署、福祉、自助グループなどさまざまな機関が集まってくれるのです。救急マニュアルの作成や事例検討など、関係者が共通の理解のもとアルコール医療に取り組むことができ、当院と共同事務局を作っている衣浦東部保健所の活動は全国モデルのひとつになっています。

アルコール依存症の治療における先生のポリシーをおしえてください。

わたしたちは、「患者さんの自律性」を大切にしています。
ご本人がどうしたいのか、これから先どんな人生を歩んでいきたいのか――それを聴いて、実現するためには何ができるのかを話し合いながら、治療を進めていきます。
患者さんたちに、お酒を止めるメリット・デメリットと飲み続けた場合のメリット・デメリットについて話し合ってもらったことがあります。
それぞれ付箋に意見を書いてまとめたのですが、参加者みんなが一致した点は「信頼をなくしてしまう、人間関係を壊してしまう」という答えでした。これこそが、治療を継続する際のモチベーションになるのです。

アルコール依存所の治療で、なぜ「動機づけ」が重要とお考えですか。

治療は、最終的に本人のためのものでなければいけません。誰かに言われたからとか、世間体のためといった表面的理由では断酒を続けることは困難です。
飲みたい気持ちは本音ですが、それだけではない。飲酒のためにあきらめざるを得なかった、本当は選びたいそれぞれの生き方があるはずなのです。
我々はそれを引き出していく必要があります。患者さんの良いところ、努力している部分を引き出して、パワーに変えていく。それがモチベーションになる。
そういった関わり方を重視しています。

そのため、当院では動機づけ面接(受容・傾聴・共感のスキルを基盤に、より健康的・社会適応的な方向へ相手自ら行動を起こそうとする気持ちを引き出す応対法)を職員研修に組み込んでいるのです。
これは依存症に限らずあらゆる援助職に有用な技術ですから。

アルコール依存症に悩むご家族へ、先生からのアドバイスをお願いします

当院では、「家族教室」を定期的に開催しています。巻き込まれたご家族が病気になることも少なくないため、家族支援は大切です。人とのつながりが変わってくると、さほどアルコールは必要でなくなります。
依存症者本人の回復のためにも、苦しんでいる家族へのサポートは欠かせません。
家族教室では、アルコール依存症の基本的な情報だけでなく、CRAFT(対立を招かず本人を治療に導き家族をエンパワーするプログラム。
コミュニティ強化法と家族トレーニング)やイネーブリング(依存者に同情し、世話をして、不始末の尻拭いをするなど、気づかぬうちに飲酒を助けたり、飲酒へと導く対応をしたりしてしまうこと)についても学べます。

誰しもイネーブラー(飲酒への助力者)になろうと思っているわけではなく、大切な人を何とかしたいという想いを抱えて行動しているのです。
だからこそ、ご家族が最善の方法と思ってやってきた努力への労いを忘れてはいけません。

わたしたち医療従事者だけでなく、断酒会・AAなど自助グループの人たちと出会い直接話を聴くこともプラスになりますから、ご家族だけでも足を運んでみるといいですね。